オーボエ奏者・藤井貴宏 オフィシャルブログ Grüß Gott aus Bayern!

音楽&ビールの街・ドイツはミュンヘンから、再びバイエルンの田舎にお引っ越し♪自然の中で生活しながら音楽や日々の話題を中心に掲載中です☆

一番大事なこと



音楽=愛

今日から10日間の日本滞在。
今朝10時に名古屋のセントレア空港で迎えてくれたS氏。実に8年ぶりの再会、社長という忙しい職務の中、私のために時間を空けて下さった。

私がある誘いで、たまたま連絡をとった数日前。その返信は余りに驚く内容で、ショックのあまりしばらく呆然としてしまった。私より一歳若い氏が昨年、癌を患い大手術を受けたというのである。耳下線癌と呼ばれる顔の一部にできる癌、しかも10万人に0.3人の割合という非常に珍しいタイプのもの。氏は金管楽器を吹く。そう、顔の一部を切るわけで、口元のバランスが崩れる。アンブシュアを1から作り直しているから今はリハビリ途中だというのだ。その後肺にも転移が見つかったが、不屈の精神と努力、そして家族をはじめとする素晴らしい仲間の力もあり、今は元気だという報告だった。

今日のフライトは珍しく名古屋に到着する便をたまたま予約していた。22日の昼間だったら時間があるのだけど?と連絡をすると直ぐ様予定を調整をしてくださり、今日の再会が実現した。

氏が到着ロビーで迎えてくれた姿を見た瞬間、喜びと安堵が全身に走る、「よかった、本当によかった」。手術をしたことはわかるものの、氏から受けるエネルギーはかつてより勝るほどの力強さ。この一年にあった出来事を一気に話してくれた。壮絶、というのはこのようなことを言うのか、余りに酷で、運命といえどもやるせない気持ちになる。仕事で忙しく走り回るながらも、音楽に対する熱意は人一倍強かった氏から病魔は楽器を吹くことを奪い去った。自分の体とはいえ、顔そして口元の感覚が変われば無論1からの出直し。それ以前に治療に耐えて癌に打ち勝たなくてはならない、多くの従業員を抱え、妻子を抱える若き男性。そのショック、絶望はどれほどのものだったのだろうか、話を聞いてもわかることなどできるはずもない。話を聞いて自分に置き換えただけでも恐ろしい。

しかし氏は語る。
「全てを手放して、初めて音楽とは何か、楽器を吹くとは何かわかりました。そして素晴らしい家族と仲間が沢山いることを改めて知ることが出来た今、良かったと思うのです」と語る。無論、悲観的な気持ちが無いはずはない。しかし私に何度もそう言い切る姿に嘘は感じない、心からの核心と力強さを感じた。そう、生きる力。

「愛ですよ、愛、愛情です、全ては!そして音楽も愛です。私の尊敬する師匠は京都からわざわざ何度もお見舞いに来てくれた。そして「僕の残りの人生をかけて君を吹けるようにするから頑張ろう」と言ってくれたんです。オーケストラの仲間も皆私を待ってくれているんです。藤井先生も今日こうして時間を作って会いに来てくださった。そして音楽もまた超の付くスーパースターは愛情のある音と音楽を奏でていると思うんです。私もそういう奏者になりたい」と言うのです。

私の師匠シェレンベルガーも「愛情、優しさを持って練習しなさい。大きな音はいらない、静かに優しく練習しなさい。音楽は愛情だ。」と口癖のように言っていたことと重なった。

僅か3時間ほどの時間、しかしそれはそれは濃厚で人生における大切なものを深く考えさせられた大切な時間になった。氏から大きなエネルギーをいただき、改めて自分の信念に大きな自信を持たせてもらった。自分が健康でいられることに感謝するとともに、周りの人が居てくれるからこその人生と音楽、肝に銘じたい。

*ホームページが新しくなりました!
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